自家組織再建(皮弁法) BREAST RECONSTRUCTION WITH FLAP SURGERY
乳がんで乳房切除術を受け、乳房全体を失った場合、再建するときに必要なのはふくらみです。
つまり、手術で取ってしまった乳房のボリュームを補う必要があるのです。
その方法のひとつが、自分の体の組織の一部を胸に移植する「自家組織再建」です。
自家組織再建のうち、一般的なのが皮弁法(皮膚、脂肪、筋肉、血管をつけたまま採取し、乳房に移植する方法)で、これには腹部の皮弁を移植する「腹直筋皮弁」、背中の皮弁を移植する「広背筋皮弁」が多く用いられます。
皮弁には血管が筋肉内を通っているので、筋肉を同時に移植することで再建した乳房の血流が安定します。
そのため、移植後に乳房の脂肪が壊死するリスクが低く、これまで多くの再建で用いられてきました。
しかし、一方では、筋肉を採取するため、再建後に腹筋や背筋の力が弱くなってしまう場合もあります。
<腹直筋皮弁>
腹部の脂肪の多い部分を切開し、皮膚や脂肪を筋肉の一部と血管を切り離して胸に移し、血管をつなぎ直して乳房をつくります(血管と筋肉をつないだまま移動する方法もあります)。個人差はありますが、一般に腹部の組織は柔らかく、プヨプヨした組織を手でつまめる分だけ取れるので、ボリュームのある大きな乳房や下垂した乳房の形成に向いている再建法です。
手術時間は7~10時間ぐらいです。入院は2週間で、その後も安静期間や回復期間として2~3ヵ月は必要です。
腹部に傷がつくことや、腹筋が弱くなるため、出産予定のある人、スポーツや仕事などで腹筋をよく使う人には向いていません。
<広背筋皮弁>
背中を紡錘形に切開し、皮膚や脂肪、腹筋を、血管をつなげたままの状態で皮膚の下をくぐらせて前にもっていき、乳房をつくります。
血管をつなぎ直す必要がないため、手術は3~4時間で終わり、合併症も比較的少ないのが特徴です。
広背筋皮弁は、腹直筋皮弁と比べて体への負担が少なく、傷も背中側につくので正面から見てもあまり目立ちません。
ただし、日本女性は背中にあまり脂肪がないため、再建に必要なだけの脂肪を取り出せないことがあり、そういう場合は腹直筋皮弁のほうがよいでしょう。
<乳房温存術後の乳房再建>
乳房温存術というと、乳房がきれいに残るとイメージしがちです。
もともと乳房にボリュームがあり、切除の容量も少なくてすんだ人は、少しへこんだだけとか、見た目ではほとんど分からない人もいますが、乳房の大きさと切除するがんの大きさによっては、かなり変形を残すことがあります。
個人差があるものの、温存術で乳房に変形が見られれば、それを修正する再建術の適応があるのです。
この場合、主に自家組織再建(皮弁法)が行われます。なかでも温存術後の再建では「広背筋皮弁」を選択することが多くなります。
温存術の場合は、それほど組織のボリュームが必要ないため、広背筋皮弁法で足りることがほとんどです。
ただ、たとえ温存であっても、広背筋皮弁法を用いた場合は、背中にも大きな傷ができ、1~2週間の入院が必要となります。
また、皮弁ほど量が必要でない場合は、わきや腹部の脂肪を移動させる局所皮弁などが用いられることもあります。